がん患者の就労について

医学の進歩によって、がん患者の5年生存率が57%にまで上がり、約60%のがんが治るようになってきています。外来中心の治療を受けながら、社会で働く患者さんが増加してきておりますが、治療と仕事の両立は大変なことであります。今後、どのようにこうした患者さんの就労を支えていくか、そして、自立への支援を行っていくかが重要な課題となっております。

日本は、世界有数のがん大国となっています。これは、医学の進歩とともに世界トップクラスの長寿国となったことによりますが、今後二人に一人はがんに罹患する時代になるとも言われています。がん患者の大多数は高齢者が占めておりますが、現役の働く世代のがん罹患数が多いことは、あまり知られておりません。国のがん対策推進基本計画によると、20歳〜64歳(生産年齢)のうち、毎年約22万人ががんに罹り、約7万人ががんで亡くなっています。

がん患者の就労を支援する一般社団法人CSRプロジェクトの桜井代表理事は、「病気を持ちながら、どう働くかは、これからの日本の働き方や社会保障を考える上で、とても重要な課題である。」と指摘しています。桜井氏が2008年に行った雇用に関する調査では、4人に3人は「今の仕事を続けたい。」と希望。しかしながら、2011年にがん罹患後の就労状況調査では、がんと診断された後、53%の人が就労状況に大きな影響を受けていることが判明。勤務先での就労状況に変化があった人の中で、依願退職が30%、転職が17%、解雇や希望していない人事異動も合計で17%となっていることが分かりました。

こうした、がん患者の就労に対して、海外では法制度化することによって支援する国も増えてきています。例えば、イタリアでは「がんリハビリテーション法」を2003年に制定。がん経験者の就労を元に戻す観点から、元の社会的地位に戻れることを保障すること、治療中の正社員とパートタイマー間の柔軟な異動が可能となることなど、治療と仕事の両立ができるよう支援しています。

医療の飛躍的な進歩によって、現在では、外来だけでよい治療も増えているようです。がん患者さんが治療と仕事を両立できるようにしていくためには、企業側への病気に対する理解を深める教育や、一定期間、治療に応じた短時間労働への対応、私傷病休暇制度の充実など就労環境の整備が必要です。企業側がこうした取り組みができるよう、行政側も患者や企業に対する支援制度に対する柔軟な適用が、いまこそ求められていると思います。