年金支給開始年齢の引き上げ問題について

サラリーマンなどが加入する厚生年金の支給開始年齢を68歳に引き上げるなどの検討案が、厚生労働省より示されている。検討段階の案であり、直ちに68歳に引き上げるものではないが、どうしてこうした話が起こるのか検証してみたい。

こうした報道は、2004年の年金改革「100年安心プラン」は、成立していないとの印象を与えかねない、重大な問題と考えます。

2004年の改革で、年金制度は、65歳からの支給で揺らぐことのないように制度設計されています。5年ごとに財政検証されますが、直近の09年の調査でも2050年度の所得代替率は、50.1%を確保できることが示されております。(所得代替率とは、現役世代の平均手取り収入に対する厚生年金の標準的な給付水準)

今回の年金の支給年齢引き上げの検討は、政権与党である民主党の「社会保障・税一体改革成案」に支給開始年齢の引き上げが盛り込まれたので、厚生労働省が検討せざるをえなくなった為に、起こった騒動であり、民主党の政権運営の未熟さが原因と考えられます。

民主党政権は「社会保障・税一体改革成案」で、マニフェストの目玉政策だった年金抜本改革案を事実上放棄し、自民、公明政権時代に作った現行制度を土台とした改善に方針転換しています。民主党案を実現するためには、共通番号制の導入や歳入庁の設置、個人事業者の所得の捕捉など、多くの課題がありましたが、具体案が示されることなく方向転換したことの説明が、そもそもありません。

年金制度は国民の信頼に大きく依存します。このため、年金制度の改正は国民の信頼を損ねることのないよう、慎重に進める必要があります。現在、平成25年まで支給開始年齢を段階的に引き上げている最中であり、その過程で唐突に、さらなる引き上げの検討を行うこと自体、無用に年金制度への不安と不信を煽ることに繋がります。

政府が真剣に取り組まなければならないのは、現行制度の不安を煽り、方向転換したことを隠すことではなく、円高やデフレ対策を強力に推進すること。65歳までの雇用をどうやって確保していくのか。というテーマであると考えます。